3DS『とびだせ どうぶつの森』の登場で「新たなる7年」が始まった


※交差法でごらんください

とびだせ どうぶつの森任天堂3DS■2012年11月8日■コミュニケーション■4,800円■★★★★★
今やマリオやゼルダに並ぶ任天堂の人気シリーズの最新作がついにニンテンドー3DSで登場。グラフィックやサウンドが大幅に強化されただけでなく、ネットワークを使った様々な仕掛けを含む追加要素が大量に用意されている。

公式サイト



波乱の携帯ゲーム業界に登場した、老舗シリーズの最新作


携帯機向けタイトルである本作の先代にあたる、DS用『おいでよ どうぶつの森』が発売されたのが7年前の2005年である。iPhoneどころかモバゲータウンもまだ存在せず、ソニーPSP以外にさしたるライバルもいない携帯ゲーム市場に君臨していたニンテンドーDS。今にして思えば、まるで永遠に続く夏休みのごとく、安穏を絵に描いたような『おいでよ どうぶつの森』の大ヒットは、当時の任天堂の絶対的な強さを象徴していたような気もする。


そして2012年である。この7年の間に携帯ゲームをめぐる状況はとてつもなくややこしくなり、ニンテンドー3DSが今後も盤石であるとは決して言いがたい昨今である。そんな混沌とした状況にありながら、しかし満を持して登場したのが本作『とびだせ どうぶつの森』だ。

私はDS版『おいでよ』の村に「定住」してから7年間欠かさず毎日プレイしており、今でも毎日少しずつプレイを続けているのだが、今回登場した3DS版へ「移住」することに決めた(システム的にデータを移せるわけではないので、今後もDS版の「メンテナンス」は続くと思いますが)。なお、私はDS版の居心地が良すぎて2008年に登場したWii版をプレイしなかったので、DS版と比較したことを書きます。

強化されたグラフィックとサウンド、そして大量の追加要素


2001年に登場したニンテンドウ64用ソフト『どうぶつの森』は、架空の村に引っ越してきた主人公が村の住人である「どうぶつ」たちと交流し、家具や虫や魚などを集めて毎日を楽しく過ごすという、一部では大人気だけどどっちかといえばマイナーな作品であった。その後、ゲームキューブ版の続編2作を経て2005年のDS版『おいでよ どうぶつの森』で一気にブレイクを果たすことになる。「もう一つの日常を気ままに楽しむ」という内容が、据え置き機よりも携帯機と絶妙にマッチしていたのが大きかった。3DS版である本作は、携帯機向けの続編としては7年ぶりの2作目となる。


DS版に比べて、まず一目でわかるのがグラフィックの美しさだ。地面、木立、水面、花、昆虫など、村の風景を構成する要素が鮮明かつ緻密になった。視認性が高まったことでゲームが進めやすくなった。たとえば化石の埋まった地面を見つけだすのがとても簡単になったりとか。自分自身や部屋の中の描写もくっきり美しくなったので、ファッションやインテリアへのこだわりがいが一気に増したと言えそうだ。

しかもフレームレートはDS版よりも向上しているし(30fps程度)、もちろん裸眼立体視に対応している。立体視の効果は派手なものではないけれど、美しい村の景色や狭くてごちゃごちゃした自分の部屋を立体視で眺めていると、この3DSの中に自分の村や家が存在してるんだなあ、というしみじみとした感慨を覚えずにはいられない。


加えて、サウンドもまた美しく変わった。音楽のことはよく知らないが、音数が増えつつ生楽器っぽい音になった感じ。シンプルで叙情的だった前作と比べると、より華やかで明るく楽しげな楽曲が増えた。ぜひサントラCDでまとめて通して聴きたい。

DS版の細かい不満が、Wii版での改善を経て、本作でかなり解消されているのも大きい。まず、釣り竿や虫取り網を十字キーで切り替えることができるようになったのが非常に有り難い。アイテムを編集するサブ画面の操作法も整理され、DS版よりわかりやすくなった(ただし、DS版で便利だった十字キー操作が変更され、タッチパネル前提の操作法になったのはちょっと残念)。建物から出るときにどうぶつが手を振ってくれるのもうれしい。地面に掘った穴がなかなか消えなくなったのも地味ながら有り難い点の一つだ(ずっと消えないわけではなく、消えるタイミングはいくつか存在する)。さらに、L+Rボタンでスクリーンショット3DSのカメラロールに保存され、パソコンで開けば他の3D写真と同様に閲覧・編集することもできる。


村の住人であるどうぶつたちとの交流も、DS版に比べてより多様になった。DS版にあった時間指定の家庭訪問や宅配イベントに加えて、「どうぶつを呼びに行く」「どうぶつと一緒に家に行く」「どうぶつのために果物を取りに行く」といった交流イベントが新たに追加された。どうぶつたちとの交流は遅かれ早かれマンネリ化するとは思うけど、だとしてもこのあたりの充実ぶりは有り難い。

さらに、本作には新要素が山ほど用意されている。まず、ゲーム中に収集できるアイテムはかなりの数が追加されているという。さらに、インターネットおよびすれちがい通信で他人の部屋を見ることができる「夢見の館」「モデルハウス」が新たに加わったのを筆頭に、条例の制定によるゲーム内ルールの改変、公共事業(ほぼ自腹の投資が必要)による村環境の構築、そして新しいお店(ガーデニング・リサイクルなど)といったたくさんの要素が追加された。
交番や喫茶店など、従来のシリーズには最初からあった施設や店が公共事業扱いになっている場合もあり、これらをオープンさせるだけでも相当な時間をかけて楽しめそうだ。

「圧倒的な面白さ」は今後もゲーム専用機ビジネスを支えるか


任天堂の10月の決算説明会での質疑応答で、岩田社長はこのように語っている。

私たちは、「無料だとか85円では味わえない、圧倒的な面白さをお客様に提供できなければ、そもそも任天堂という会社の存在価値はないし、ゲーム専用機の存在価値はなくなってしまう」と思います。

例えば、「『どうぶつの森』でダウンロードコンテンツを出せば、ものすごくもうかるのではないか」と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、逆にそれをやると、『どうぶつの森』というゲームがものすごくお金の力にあかせて遊ぶゲームに変わってしまって不健全になりかねないので、開発チームともよく相談し、一切そのような要素は入れておりません。

この7年の間に大変動した携帯ゲーム市場であるが、少なくとも今回の『とびだせ どうぶつの森』に関しては、そういった変動にあまり影響を受けず、これまで通りの哲学を貫いて作られた作品であり、旧作から大きく進化していても芯の部分はぶれていないと感じた。

実売価格である4,000円前後を支払えば、質的にも量的にも「圧倒的な面白さ」を(追加料金なしで)まとめて手に入れることができる。報道によれば、本作は売り切れが続発するほど人気が過熱しているらしい。『スーパーマリオ 3Dランド』のときも思ったが、圧倒的な面白さを持つ優れた作品さえ用意できれば、ゲーム専用機のビジネスが(必ずしも課金に頼らずとも)スマートフォンや課金型携帯ゲームと渡り合って棲み分けていくことも可能ということか。まあ、その「優れた作品」を用意することが本当に大変なんだとは思いますが。


しばらく考えてみたのであるが、私が7年もの間、しかも毎日欠かさずプレイしたゲームは後にも先にも『おいでよ どうぶつの森』ただひとつである。先代のDS版でさえ7年も楽しませてもらったわけで、3DS版『とびだせ どうぶつの森』は一体何年間遊ばせてもらえるんだろうか。少なく見積もっても同じ7年か。


しかし、私が今後7年遊ぶかどうかはともかく、ゲーム業界におけるこれまでの7年とこれからの7年はまったく勝手が違うんだろうなあ、とも思う。たとえば私は『とびだせ どうぶつの森』に課金の仕組みが入らなかったことには大賛成ではあるけれども、この長年に渡って売れ続け・遊び続けられる作品に課金の仕組みをいっさい入れなかったことは果たして正しかったんだろうか、とも思う。この『どうぶつの森』の行く末のみならず、任天堂、そしてゲーム専用機業界ってこれからどうなっていくんだろうか。日曜にひとカブ108ベルで買ってしまったカブが今日も順調に値下がりしているのを見て、そんなことをちょっと考えた。


「新たなる7年」はまだ始まったばかりだ。なんてね。とりあえず、今は村が雪景色に変わるのを心待ちにしている次第です。


とびだせ どうぶつの森 - 3DS

とびだせ どうぶつの森 - 3DS