まるで「ピンボールの名場面集」。インクの染みも美しい秀作『INKS.』

■INKS.■State of Play Games■iOS■2016年5月6日■ピンボール/パズル■240円■★★★★★
パズル要素の強いピンボールゲーム。たくさんのレベル(盤面)が用意されており、盤上のすべてのチェックポイントを通過すればレベルクリアとなる。盤上を彩るインク風の美しいエフェクトも特徴のひとつ。

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元来、ピンボールは「限られたボールでいかに高得点を稼ぐか」という遊びであり、『David's Midnight Magic』にしても『ポケモンピンボール』にしても『Star Wars Pinball』にしても、たいていのデジタル版ピンボールゲームがそのお約束を踏襲していた。こうした従来のピンボールゲームは、「まずゲームのルールや約物の意味を覚える必要があり、さらにルールを覚えてゲームに慣れ上達するにつれ、どんどん一回ごとのプレイ時間が長くなっていく」という(昨今のスマートフォン時代には若干フィットしない)特徴があった。

この『INKS.』は、ピンボールをモチーフとして採用しつつ、従来のピンボールゲームの特徴からあえて逃れることで、スマートフォンでも手軽に楽しめるようになっている。本作の目的は長時間のプレイでハイスコアを狙うことではなく、「いかに最短の手数で盤上のチェックポイントをすべて通過するか」である。何度ミスしてもチェックポイントをすべて通過すればクリアだけはできるが、盤面の形状や障害物の配置を見極めて、もっとも少ない手数でクリアすれば「スター」を獲得できる。ピンボールの仕組みを使ったパズルゲームとも言えそうだ。
本作がこれまでのピンボールゲームと違うのは、「比較的シンプルな盤面が大量に用意されている」という点だ。全部で5つのステージがあり、それぞれのステージに24のレベル(盤面)がある。後半の2つのステージは各120円の課金アイテムとなっている。さっそく購入して遊んでみたが、ステージごとに難易度が上がるというよりも、レベルデザインの作風がステージごとに異なっている、という感じの作りになっていて、最初に入っている3ステージとはまた違ったテイストを楽しむことができる。
なお、セーブデータはiCloudに保存されるので、iPhoneiPadを使い分けてゲームを進めることもできる。iPad Air 2でプレイすると、バンパーにぶつかった時などのリアルな効果音が鳴るたびにiPadの背面がいい感じで振動し、本当にこういうピンボール台で遊んでいるみたいな気分になる。

インクをモチーフにした美しいグラフィックも本作の大きな特徴のひとつだ。ボールがチェックポイントを通るとインクが破裂したり染み出したり、ボールがインクの上を通ると盤上にボールの軌跡が残ったり(この軌跡が攻略の手がかりにもなる)といった描写がとてもキレイで、見ているだけで楽しくなってくる。クリアしたあとの盤面は、まるで絵画アプリで描いた絵みたいになる(このクリア済みの盤面をSNSなどでシェアする機能も付いている)。まさに公式サイトの言葉通り「Art and gameplay as one」な感じ。目的は最短の手数だけど、あえてクリアせず延々と盤面を汚しまくるのも面白い。
どのレベルも簡潔かつ緻密な計算のもとに作られており、しかもどのステージのレベルも自由に選択できる。限られた複雑な盤面の中で延々とストイックに攻略していくピンボールゲームとは違い、ピンボールの楽しさを色々な盤面で気軽に楽しめる内容となっている。とはいえ、序盤のレベルでは適当にやっていてもスターを獲得できるものの、レベルごとに難易度はどんどん上がっていき、かなりの試行錯誤の積み重ね(と若干の運)が必要になってくる。よっぽどピンボールが上手い人でも、けっこうな時間を楽しめるのではないだろうか。質も量も含めて、240円で本当に元が取れるのか心配になるぐらいの秀作。iOSの有料アプリとしてはまさに「出色」の出来だ(ダジャレです)。
私はピンボールのことはまったく存じあげないけど、この『INKS.』をプレイしていると「ピンボール名場面集」な感じもする。普通のピンボールなら不連続に現れる様々な場面(バンパーだらけの得点エリアにボールを突っ込むとか、細い隙間をギリギリのタイミングで狙い撃つとか、レーンを通って2階へ行って上フリッパーでターゲットを狙撃するとか……)をスライスして各々のレベルに振り分けた、という印象。『メイドインワリオ』みたいに、盤面が次々にランダムで出てきてサドンデスでどんどん攻略していく、みたいなモードがあったら面白そう。