任天堂らしくない。『エキサイト猛マシン』は傑作なのに“景品”扱い

エキサイト猛マシン任天堂/Monster Games■Wii■2011年8月末 交換開始■レースゲーム■1000ポイント(クラブニンテンドーの景品、非売品)■★★★★★
2007年発売のWii用レースゲーム『エキサイト トラック』の続編。オフロードコースを舞台に、生物風のロボットを操作してレースを繰り広げる。ターボによる加速を駆使しながらスタントを決めるという前作の内容を継承しつつ、ロボットならではの様々な仕掛けが新たに追加された。海外では2009年に発売済み。 (『エキサイト猛マシン』公式サイト



世間的には健康器具やパーティ用品みたいに扱われることも多いWiiには、“隠れた名作”がけっこう多い。2007年にリリースされた『エキサイト トラック』もその一つで、レースゲームの年表を書く時には必ず入れておいてほしいぐらいの秀作だ。

この『エキサイト トラック』は、オフロードで順位を争いつつトリックを決めて得点を稼ぐタイプのレースゲームで、本当によくできている。グラフィックがSD解像度なのを除けば、HDゲーム機用の『Pure』や『モーターストーム』といった同ジャンルの作品と比べてもまったく遜色がない。
本作は、任天堂の『エキサイトバイク』と同様に、エンジンの加熱を気にしつつターボを駆使して走ることが前提になっており、超高速で疾走しながら大ジャンプして超高度の空中でトリックを決めたり、敵に体当たりをかまして破壊したり、オーバーヒートしたエンジンを水たまりに突っ込んで一気に冷却したりと、まさに「スカッとする」展開ばかりが大量に用意されているのが素晴らしい。Wiiを持っているのにプレイしたことがない人はぜひ購入をおすすめしたいところだ。安いし(中古なら)。
で、今回の『エキサイト猛マシン』だ。海外では2009年に発売されていた作品が、今回ようやく日本語版として登場した。


前作『エキサイト トラック』の優れた要素をがっちり継承しつつ、自機がトラックでなく「昆虫や動物型のロボット」になった。この変更にともない、『マリオカート』的なアイテムが使えるようになったり、バーを使ったスタントが可能になったりと、ロボットならではのアクションが追加されている。あるアイテムを取るとなぜかミニゲームのようなイベントが始まるのも面白い。
自機がロボットという設定も、現実にはありえない破天荒なレースゲームという内容にぴったりで、まったく違和感がない。若干荒削りだった前作をブラッシュアップしつつ新しい要素を加えた『エキサイト猛マシン』、もはや買わない理由など存在しないと言っても過言ではないだろう。


……でも、買えないんだこれが。ご存知の通り、本作『エキサイト猛マシン』は非売品であり、現時点ではクラブニンテンドーの景品として入手する以外にプレイする手段はない(私は8月末に発注したんだけど、半月ぐらいかかるかなあと思ったら数日後にはもう届いてびっくりした。あんまり発注してる人がいないんじゃないのかな)。
しかも交換には「1000ポイント」が必要なのである。ゲームソフト1本を買うと獲得できるのが50ポイント程度なので、1000ポイントというのはかなりの額だ。クラブニンテンドーではこれまでにも『ゲーム&ウォッチ コレクション』(500ポイント)のような、店頭に並ぶ作品とはまた違った種類のゲームソフトを用意していたが、本来なら普通に店頭で売られるはずの秀作『エキサイト猛マシン』を1000ポイントの非売品にするというのは、一体どういうつもりなんだろうか。


任天堂の岩田社長は今年の株主総会で、スマートフォンの安価なゲームやソーシャルゲームに関する話の流れで

今まで『スーパーマリオ』を楽しむためにはこれだけのコストを払う、それで自分の得ている価値と自分が支払っているお金が釣り合っているとお客様が考えてくださっていて、そういう形でゲーム業界というのは進歩し、非常にリッチな体験ができる凝りに凝ったソフトを作ってもそういう対価を払っていただけるお客様が世界レベルで見ると数千万人、数億人の単位でいらっしゃるからビジネスが成立してきたのですが、「ゲームというのはタダだよ」ということになってしまいますと、これは非常に大きな問題です。

発言されている。質の高いソフトを(それなりの価格で)売ることを商売の根幹とする任天堂の姿勢としては、確かに筋が通っていると思う。
で、ちょっと文脈は違うけれども、『エキサイト猛マシン』にはちゃんと対価(お金)を支払って購入するだけのリッチな価値がある。この優れたゲームソフトを、高額のポイントとの交換でしか入手できない景品にすべきではなかったんじゃないかと思う。プレイしたいのに1000ポイント持ってない人、日本のユーザーにも広くプレイしてほしいのにしてもらえない開発元、いくら傑作を手に入れるためとはいえ泣く泣く1000ポイントを支払う人……誰も得をしていない気がする。任天堂なりの考えや戦略があるのかもしれないが、私は任天堂に迷いやブレを感じるのである。
今回の『エキサイト猛マシン』の扱いは、任天堂らしくないと思った。






[追記 2011.9.7]
24年前(1987年)にも、任天堂が『パンチアウト ゴールドカートリッジ』(中身は北米向けのNES用ソフトで、日本では未発売だった)を景品(賞品)として配布し、その後に『マイクタイソン・パンチアウト』として発売していたことを思い出した。
当時の事情を詳しく解説している方がおられた。以下、引用します:


87年開催の 『第2回 ファミリーコンピュータ ゴルフトーナメント』 。 ディスクソフト 「ゴルフUSコース」 で 4ラウンド回ったスコアを競い合う全国規模の大会で、前回を上回る応募者14万5664人が目指した豪華賞品ソフト。
成績上位5000人と抽選で5000人に贈られた任天堂特製のオリジナルで、アメリカで業務用からNESソフトにリメイクされた日本未発売(当時)のゲームを、そのままゴールドカセット仕様の賞品として配布された非売品。
その2ヶ月後には「マイクタイソン・パンチアウト」として市販され、どれだけ入賞者が落胆したことか・・・(笑)。


http://homepage2.nifty.com/matikane/ninten/notsale-punchout.htm

私は当時ゴルフトーナメントには応募せず、その後に発売された『マイクタイソン・パンチアウト』を買った。果たして今回の『エキサイト猛マシン』も市販されることになるんだろうか。

エキサイト トラック - Wii

エキサイト トラック - Wii