6年の歳月を経てさらに美しくなった『ワンダと巨像』、ついにPS3で復活

ワンダと巨像SCEPS3■2011年9月22日■アクション・アドベンチャー■3,980円/6,980円(『ICO/ワンダと巨像 Limited Box』)■★★★★★
2005年にPS2で発売された名作『ワンダと巨像』をPS3向けにリマスターした作品。馬に乗って世界に点在する巨像を探し出して倒すというゲーム内容はそのままに、画面の解像度とフレームレートがPS2版に比べて大幅に向上している。
ICO/ワンダと巨像 Limited Box』には、『ICO』『ワンダと巨像』の2作品に加え、開発資料などを収録した冊子「BRUTUS特別編集 神話を紡ぐ。」が同梱されている。

ICO・ワンダと巨像・人喰いの大鷲トリコ | プレイステーション



ついにPS2からPS3へと舞台を移して『ワンダと巨像』が復活を果たした。
ダウンタウンの松本さんが「リンカーン」や「放送室」で一番好きなゲームとして挙げていて、その流れで初めて知ったという人も少なくないのではなかろうか。プレイしたことのない人はこの機会にぜひプレイすべきだと思う。PS3版で初めてプレイするという人が正直うらやましいくらいだ。

6年前も、私はPS2版『ワンダと巨像』を予約して購入し、記事を書いた。今回のPS3版は6年前の作品のいわば「リマスター版」ということなので、今回はこの当時の記事を引用していきたいと思う。
以下、2005年10月の記事から引用します。


まず、ゲームの基本的な内容について。

ワンダと巨像』は、巨大な生きた石像を相手に生身の人間が戦うという、今までありそうで無かった作品である。
この「小さい自分vs巨大な敵」というモチーフを見て、私はあの『R-TYPE』(1980年代後半のシューティングゲーム)の「巨大な戦艦そのものが一つのステージ」を思い出した。
プレイヤーは基本的に撃って避けるだけの『R-TYPE』からかれこれ20年、『ワンダと巨像』の主人公はまず愛馬を駆って巨像の居場所を探し出し、やっと見つけた巨像の弱点を見つけ、踏んだり蹴られたりしないように逃げ回りながら巨像によじ上り、弱点を攻撃し、そして急所に剣を突き刺して巨像の息の根を止める、という複雑でスリル満点な戦いを繰り広げることになる。

この部分には変更はない。トロフィーなどの追加はあるものの、PS3版もまったく同様である。今プレイしてもまったく古さは感じられない。
ちなみに『R-TYPE』の「巨大な戦艦そのものが一つのステージ」はこんな感じだ(面白ゲーム変遷史さんから引用しました)。



次にグラフィック。

この『ワンダと巨像』、グラフィックがもうとにかくえらいことになっている。
主人公を振り落とそうと巨体を揺り動かす巨像。その背中に生えた毛にしがみつきながら必死で巨像の脳天にたどり着き、必殺の剣を突き刺す主人公。
この迫力、テレビの大きさに比例して増大するような気がする。
これほど大画面に相応しい映像コンテンツは、映画も含めてそうそうあるものではない。

グラフィックはPS2の時からずばぬけて綺麗だったが、PS2のSD解像度から1080pへ一気にジャンプアップしたことで、グラフィックはさらに美しくなった。テクスチャーも新たに細密化されている(ように見える)。
解像度とフレームレート(後述)が上がったことで感情移入が一気にしやすくなった。ある程度大きなテレビでプレイしている人なら、最初の巨人が登場するカットで絶対に声をあげちゃうと思う。

細かいけど、解像度が上がったことでトカゲや果物も射やすくなったのもありがたい。さらに、今回は立体視にも対応しているという。3Dテレビを持っている人がうらやましいっす。
ただ、PS2からPS3に移植された『ゴッド・オブ・ウォー』の時もそうだったけど、PS2版から持って来たキャラクターや草木が若干貧相に見える場合もあるにはある。

巨像のデザインも素晴らしい出来映えである。プエブロ・インディアンのカチーナ人形なんかを彷彿とさせる、原初的・神秘的かつユーモラスな顔と外観。
多数登場する巨像それぞれに、神話的なバックグラウンドが存在するのではと思わせる、少なくともこれまでのゲームではまず類を見ない強烈で個性的なデザインである。


巨像だけでなく、主人公や馬といったキャラクタのモデリング・デザイン・アニメーションも非常に完成度が高い。
戦闘中のサウンドも画面に劣らぬ大迫力だし、音楽も素晴らしい。ちょっと癖のある操作系も、慣れればすぐしっくり来る。
難易度も高いようでけっこう低く、あんまり悩まずサクサク進めることができる。ほとんどケチを付ける隙のない、ものすごいゲームであると思う。


PS2でも十分美しかった背景・キャラクター・巨像は、さらに鮮明に描写されている。そして、久々にプレイするとキャラクターの動きに重みがあり、とてもリアルにできているなあと感じる。特に馬のアグロ。馬のままならない動きを表現しつつ操作性も犠牲にしていない。最近たまたま『オブリビオン』(馬の動きが若干ぞんざい)をプレイしていたので、余計にアグロの動きが素晴らしく見えるのかもしれない。

そして画面のフレームレートである。

それにしても、フレームレートが全般的にかなり低いのが本当に残念。唯一無二の不満と言えるかもしれない。動きの激しい場面では目が疲れるし、感情移入の妨げにすらなっている。グラフィックの質を落として30fpsぐらいを維持するモードがあっても良かったのではないだろうか。このゲームで遊んだ後テレビの外に目をやると「現実世界ってフレームレート高いなあ」と思うこと請け合いである。

これがPS2版に感じていた最大の不満だったが、今回もう本当に霧が晴れたみたいに解決した。解像度が上がり、フレームレートも(おそらく)60fpsになった。このおかげで画面が見やすくなるばかりでなく、アスレチックな動きが必要になる難所や、細かい攻略が必要になる巨像との戦いなどで操作がしやすくなり、難易度がかなり下がったようにさえ感じられる。

私は大満足であった。『ICO』における箱庭パズルの密度とは違うが、それぞれの巨像達との死闘がとても高密度で、非常に充実している。全体のボリュームが短いのも、長大なゲームに対する持続力を失った私にとってはかえって有り難かった。次はぜひ『ICO』直系の続編を期待したい。それが駄目なら、『ICO』の高解像度版でもいいっす。今すぐ買います。

今回、ようやく『ICO』のPS3版も実現し、同時発売となった。そして、上田文人さんが制作中の新作は『ICO』直系ではなく、『ICO』と『ワンダの巨像』を止揚したようなすごい作品『人喰いの大鷲トリコ』だった。発売の日を心待ちにしております。

なお、今回発売となった『ICO/ワンダと巨像 Limited Box』に同梱の冊子「BRUTUS特別編集 神話を紡ぐ。」は、仕様書や絵コンテといった貴重な図版や上田文人さんへのインタビューなどを中心にした密度の高い内容で、SCE内の制作スタジオの様子も収められており、全100ページすべてが面白かった。
楽しいエピソードが満載だったけど、中でも『ICO』と『ワンダと巨像』が物語的につながっていないのは『マッドマックス2』(前作と話がつながっていない)に影響されたため、というのはちょっと意外だった。
それと、中学時代の上田さんは『スペースハリアー』につられてセガマークIIIを買った、とのこと。「そのころからマイナー志向があって、任天堂セガだったら、セガかなと」。