「ゲーム専用機」の本領発揮。『スーパーマリオ3Dランド』の「度を越した面白さ」

スーパーマリオ3Dランド任天堂3DS■2011年11月3日■3Dアクション■4,800円■★★★★★
スーパーマリオブラザーズ』シリーズの最新作が3DSで登場。マリオを操作して、3D空間内に構築された様々なステージのゴールを目指す。裸眼立体視機能を駆使し、これまでの2Dマリオシリーズの親しみやすさと3Dマリオシリーズの良さを両立した内容となっている。

任天堂『スーパーマリオ3Dランド』公式サイト



正直私はニンテンドー3DSのことを忘れていた。別に私の家の3DSがホコリをかぶっていたとかそういうわけではない。あんなに楽しかった『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』の喧騒も過ぎ去り、消化試合みたいに『nintendogs+cats』『歩いてわかる 生活リズムDS』『おいでよ どうぶつの森』の3本を粛々とプレイするだけの日々が続いていたのである。しかも後者2本は先代のDS用ソフトだし、前者1本はDS版の置き換え。いわば「毎日使っているこの機械が3DSであること」を忘れていた、という感じかもしれない。


そして、私は3DSの超大物物件『スーパーマリオ3Dランド』にも大して期待していなかった。3DSなんだから本気の3Dマリオが来るであろうと勝手に予想していたが、発売前に見た『スーパーマリオ3Dランド』の予告ムービーから私が受けた印象は「みんなが好きな2Dマリオを3DSで立体っぽくしてみました」みたいな感じであった。


私は、ややとっつきの悪い3Dの『マリオギャラクシー』シリーズの方が、2Dのマリオシリーズよりも好みなのであるが、世間の耳目は2Dの『New スーパーマリオブラザーズ』シリーズの方に集まりがちだ。なので、3DSの命運を握る新作マリオが2D寄りになっちゃって若干がっかりだよな、でもまあ仕方ねえよなあ、そりゃ絶対買うけどさ、という不満やあきらめも入り混じった複雑な心持ちで、私は11月3日の朝にアマゾンからの配送便を受け取ったのであった。


申し訳ない。ぜんぶ私の勝手な思い込みだった。ここしばらく我が家において野党の地位に甘んじていた任天堂のゲーム機であるが、『スーパーマリオ3Dランド』の登場により、iOSPS3も押しのけて3DSが一気に政権与党に返り咲いたのである。同日にアマゾンから届いたPS3の『バトルフィールド3』と『アンチャーテッド3』で遊ぶ暇がないくらいだ。

スーパーマリオ3Dランド』は、「3DS以外では実現できない」と「ものすごく面白い」、このふたつを完璧に両立した、3DSで初めてのゲームソフトである。「3Dグラフィックでゲームはこんなに面白くなる」を具体化したのが『スーパーマリオ64』だったとすれば、「裸眼立体視でゲームはこんなに面白くなる」を見事に具体化したのがこの『スーパーマリオ3Dランド』だ。みんな感じてるだろうけどあえて書くが、これがローンチにあったらよかったのにね。


今回の最大の特徴がカメラワークだ。本作は3Dグラフィックを採用しているものの、従来の3Dマリオシリーズと違い、(特定のステージのみならず)ゲーム全体を通してプレイヤーがカメラをほぼ操作できず、自動的にカメラがマリオを追従する。操作性を損なわず、かつ裸眼立体視が最大限に活かされる(遠近・高低差のコントラストが映えるような)カメラワークが、ステージごとに別々に設定されているのだ。
プレイヤーは場面ごとにカメラを操作しなくてもいいので、不慣れな人でも操作に迷わずに済むし、3D酔いすることもなくなった。3Dマリオシリーズ特有の取っ付きにくさやジレンマを一気に解決しつつ、3DS立体視機能も有効利用することに成功しているのである。このカメラワークの簡便さも、立体視による空間把握のしやすさがあってこそ実現したと言えるだろう。ただ、さすがに画面奥方向のジャンプアクションなんかでは位置関係がわかりにくくなることもあるが、本作ではあらゆる物体の「影」が地面や他の物体に描かれており、立体空間の把握に一役買っている。


本作をプレイした人は間違いなく、立体視の有り難みをしみじみと感じることになるはずだ。高低・遠近をしっかり表現することによる画面の迫力もさることながら、3D空間の奥行き・高低差を直感的に把握することがゲーム性に結びついている。この「立体視の有り難み」という点において、本作は既存の立体視コンテンツの中でもトップクラスだ。出来の良い3D立体視映画でも、『スーパーマリオ3Dランド』にかなう作品は少ないんじゃなかろうか。3DS用ソフトの初期作品と比較しても、その差は歴然としている。

私は写真のことはよく知らないが、撮像素子が大きくてF値の小さい、いわゆる「被写界深度の浅い」カメラ・レンズを使えば、ピントの合った部分以外がボケることで(パンフォーカスとはまた別の)豊かな表現が可能になる。が、ボケを使えばそれっぽい写真になることはなるものの、ボケによって写真作品の完成度を高めるためには、相応の技術やノウハウが必要なわけだ。
立体視をゲームに活用するということは、この「写真のボケ」に似ていると思う。ただ立体に見えるというだけでは不十分なのだ。たとえば「あの有名FPS立体視に対応!」って言われてもピンと来ず、実際にプレイしても(確かに立体に見えるけど)やっぱりピンと来ない、ということがあるとしたら「立体視活用のノウハウ」が足りないせいなんだろう。『スーパーマリオ3Dランド』で、任天堂はそのノウハウを確実に向上させている。
ただ、写真のボケは画面だろうと印刷だろうと一目でわかるが、『スーパーマリオ3Dランド』の立体視の出来の良さは3DSでしか見えない。3DS発売前から言われていることだけど、テレビCMやウェブサイトのスクリーンショットでは今ひとつわからない。とうの昔に却下されてるかもしれないけど、任天堂がお店で配布してるパンフレットのスクリーンショットアナグリフ式にして、赤青メガネをくっつけて配ったらいいのにと思う。


そして、本作はとにかく「面白い」。映像がどうとかストーリーがどうとか、ゲームの出来不出来を評価するポイントは色々あるが、「面白さ」という点において本作はゲーム史上最高レベルである。あまりに突出した本作の「面白さ」には中毒性すら感じられる。こうして文章を書いている間にも、私はあの立体空間で取り損ねたスターコインの取り方を脳内でシミュレーションしている始末だ。


これまで『スーパーマリオブラザーズ』以降の2Dマリオと『スーパーマリオ64』以降の3Dマリオは、お互いそれなりに影響を及ぼしつつもそれぞれ一定の距離を置いて発展してきた。今回この両者のエッセンスを3DS立体視機能が媒介し、過去の2D・3D両シリーズで好評だった数々の要素をいいとこ取りして、違和感のない形でふんだんに組み込むことによって、親しみやすさと新しさが両立した圧倒的な「面白さ」が実現している。

ソーシャルゲームスマートフォンが一般化した昨今、かつてはビデオゲームにおいてあれだけツブシの利いた「面白さ」という要素が、そこまで重視されなくなっている。何なら「面白すぎても困る」とか「面白さを小分けにして売ってほしい」みたいなニーズだってあるんだろう。「高音質」にこだわった音楽プレイヤーよりも、特に音質を売りにしていないiPodの方がよっぽど売れる、というのにちょっと似てる。


でも、本作の「面白さ」は別格かもしれない。私はiOSの85円ゲームも好きだけど、『スーパーマリオ3Dランド』の「面白さ」の圧倒的な質・量には改めて感心させられた。過去のシリーズと同様に、本作も複数のワールド内に複数のステージという構成になっているが、個々のステージひとつ取ってもiOSの低価格ゲームが一体何本作れるんだというぐらい大量のアイデアやギミックが投入されている。しかもこの「面白さ」は今のところ3DSでしか体験できない。本作の売価は85円ゲームの50倍ぐらいだが、本作のこの「度を越した面白さ」ならその価格も致し方ないという感じだ。



私は、任天堂が最大の武器である「面白さ」によってゲーム専用機の戦いを制圧し、しかるのちにスマートフォンやらソーシャルゲームといったややこしい勢力に「面白さ」以外の飛び道具を使って(何なら3DSを捨ててでも)対抗するつもりなのかもしれない、と考えていた。


だけど、『スーパーマリオ3Dランド』の「度を越した面白さ」を目の当たりにして、うまい具合にスマートフォン陣営と棲み分けるのも不可能ではないかもしれない、と思った。まだまだ「ゲーム専用機」も捨てたもんじゃないと実感した次第だ。


スーパーマリオ3Dランド - 3DS

スーパーマリオ3Dランド - 3DS