メタルギア+メトロイド+殴る蹴る。バットマンを知らずとも楽しめる傑作『バットマン アーカム・アサイラム』

morisawajun2010-01-19

スクウェア・エニックスPS3/Xbox360■2010年1月14日発売■アクションアドベンチャー■7,980円(税込)■1人用■★★★★★
私は「バットマン」がなぜあれほど人気があるのか、今ひとつ理解できない。実写映画版はすべて見たけど、正直言ってほとんど印象に残っていない。強いて挙げれば顔色のおかしいシュワルツェネッガーの事ぐらいである。映画「ダークナイト」がファンの人たちの間では空前絶後の大傑作という事になってるみたいだけど(アマゾンのレビューが褒め殺し合戦みたいになってる)、私はあんまりピンと来なかった。原作コミックでおなじみ(らしい)バットマンと悪役たちが活躍するリアルでシリアスな映画なんだが、「マンガの登場人物がリアルな現実社会で右往左往している」みたいに見えた。私が原作コミックの設定やアメコミそのものについて何も知らないせいなんだと思うけど、登場人物が「キャラクタ」でなく「キャラ」に見えたなあ(特にトゥーフェイス)。すいません不勉強で。
その程度の知識と思い入れしかない「バットマン」だが、ゲーム版の最新作『バットマン アーカム・アサイラム』は予約してまで取り寄せてしまった。というのは、GameTrailers(ゲームの高画質動画がレビュー込みで見られるサイト)のレビュー動画を見てしまい、そのとんでもないすごい出来のグラフィックと、見るからに面白そうなゲームシステムに、居ても立ってもいられなくなったんである。
GameTrailers - YouTube
本作は、犯罪者収容施設「アーカムアサイラム」(過去の映画では「アーカム精神病院」という名前で登場したらしい)を舞台に、宿敵であるジョーカーら個性的な悪役および囚人たちと戦うアクションゲームである。ゲームシステムとしては『メタルギア・ソリッド』的なアクションゲームから銃火器的な攻撃要素を減らして、かわりに肉弾戦による格闘アクションの要素を大幅に増強しつつ、『メトロイドプライム』的な抜け道探し・通路移動の要素も若干加わっているという、かなり欲張りな作りとなっている。
まず最初にびっくりするのがグラフィックだろう。人物も背景も、テレビに手を突っ込んだら触れるんじゃないかと感じるぐらいの驚異的なリアリティを実現している。特に人物の描き込み方は本当にすごい。服の生地とか毛穴とか毛の生え際とか小じわとか、複雑な人間の外観を不自然さがあんまり感じられないレベルでしっかり表現している。ヒゲの剃り跡まで見えちゃう。ゲーム中いつでも画面をズームできるようになっているんだけど、これも制作者の自信の現れなんだろう。確かにズームして見てもほとんど不自然に見えない。
アクションゲームとしての完成度もとても高い。バットマンが最初から持っているグラップリング(『ゼルダの伝説』のフックショット的な、ワイヤーで高所へ飛び移れる装備)の使いどころが単なる移動だけでなく、「敵の上をとって飛び降りて背後から倒し、また上へ逃げる」という感じで戦いの流れの一部に組み込めるため、立体的な戦闘を楽しめるようになっているんである。
敵との格闘戦も見所の一つだ。特に、複数の敵を一度に相手にした場合、簡単な操作で爽快なアクションが楽しめる。攻撃ボタンやカウンターボタンなどをタイミングよく押していくだけで、バットマンがどんどん技を連続してつなげて行ってくれる。しかも、敵の距離や位置に応じて色々な技を出し分けているらしい。ちょっと楽すぎるけど「殴って蹴ってる感」はものすごく伝わってくる。
私が感心したのは、「バットマンが最初からわりと強い」という点である。たとえば任天堂の『メトロイドプライム』なんかは、ゲームを始めた直後は自機がものすごく弱い。初期装備が貧弱で、攻撃も防御もジャンプもままならない。そこから強くなって行く過程で確かにカタルシスは生じるが、でも貧弱な装備の状態はつらい。でも本作のバットマンは最初から格闘もグラップリングもバットラング(ブーメラン)もそこそこイケる。「装備が貧弱でつらい」みたいな感じは全然なかった。でも徐々に装備や技はグレードアップしてカタルシスを感じられる仕組みになっており、このあたりのバランスは非常によく考えられてるなと思った。
さらに、ゲーム中にボタンを押すことで画面を「捜査モード」に切り替える事ができる。これにより画面に周囲の解析情報が重なって、逃亡した敵の痕跡だとか、壊れそうな壁だとか、壁の向こうにいる敵だとか(人物は皮膚が透けて骨格になって見える)が丸わかりになり、地形にも輪郭がついて移動の道筋がわかりやすくなる。便利でおもしろい機能だけど、便利すぎて通常モードの意義がなくなっているように感じた。かといって、ずっと捜査モードのままだと画面が解析状態になって味気ないんだ。ちょっとこのへんは工夫の余地ありかなと思った。
ゲームの展開は自由度が低いけどメリハリがあり、飽きさせない作りになっている。アーカム収容所の広い敷地内には様々なロケーションがあり、次から次へと新たな局面へと移行して行く。周到に用意された万全のお膳立てにより、バットマンになりきって楽しめること請け合いだ。
ただ、「原作ファンにはおなじみのアイツが登場だ!」的なシチュエーションが時々あり、さすがにそういう場面ではバットマンになりきれなかった。高1で知り合って友達になった奴と楽しく遊んでたら、そいつの中学からの友人という人が現れてそいつと2人で歓談されてるさまを呆然と客観的に眺めてる、みたいな気分。その歓談に割り込んで新たな人間関係を築けるか、それとも客観的に眺め続けるだけなのか。今回、私は残念ながら後者であった。本作には親切にもキャラクタ図鑑みたいな機能も付いていて、キャラクタの人どなりや原作の世界観を学べる機会がしっかりと用意されているのだが、私にはそこまでして「バットマン」の世界を知りたいとは思えなかった。本当にすいません。とはいえ、ビデオゲームとしての優秀さには尋常ならざるものがあるので、「バットマン」を意識的に嫌っているのでもなければ間違いなく楽しめるはず。さらにファンの人はその何倍もの楽しみが待ってるんだろうな。知らないけど。

ともあれ、年末に買ってそろそろ遊び尽くしたゲームの後がまを探してる人はぜひ本作を検討した方がいいと思った。ものすごい傑作。