ピクサーの「脚本の書き方講座」が素晴らしかった
今回はゲームとあまり関係ない話。
『トイ・ストーリー』シリーズを始めとする数々の傑作でおなじみアニメ制作会社、ピクサー。この会社の作品のDVDソフトには、たいていピクサー社内における制作現場のメイキング映像が特典として収録されている。最新作『トイ・ストーリー3』のブルーレイ版にも豪華な特典映像がたっぷり付いていたが、その中のひとつ「脚本の書き方講座」が、映像をまじえてとてもわかりやすく作られており、非常に面白いものだった。
まず前提として、ハリウッドの娯楽映画の多くは「映画の尺の1/4が第1幕(発端)、1/2が第2幕(葛藤)、残りの1/4が第3幕(解決)」という3幕で構成されている。ピクサー作品の場合「脚本はおおよそ100ページで、3幕の配分は25/50/25ページ」とのこと。
この特典映像「脚本の書き方講座」では、ピクサーの『トイ・ストーリー』『ファインディング・ニモ』『Mr.インクレディブル』を例にしながら、本作の脚本家が第1幕の作り方を順を追ってわかりやすく紹介している。いわく「本当に難しいのは結末でなく冒頭」。
1. 主人公の紹介。および主人公に目的を与える。主人公の好きな物、特徴づけるものを明らかにする。
まず、主人公の
・状況設定
・大切なもの
・弱点
を決める。
「大切なもの」とは、例えば:
・ウッディ(トイ・ストーリー)……アンディ(ウッディの持ち主)
・マーリン(ファインディング・ニモ):家族(妻と子供)
・インクレディブル:スーパーヒーローの地位
「弱点」とは「大切なものを愛し過ぎ、執着しすぎるとそれが弱みとなる」ということ。
・ウッディ:アンディの「お気に入り」の地位
・マーリン:良い父親であること
・インクレディブル:自分の仕事に誇りを持ちすぎること
主人公の「大切なもの」「弱点」が決まったら…
2.「嵐雲」を起こす。あくまで嵐の兆しであり、災難そのものではない。
・ウッディ:アンディの誕生日(自分たちを脅かす、新しいオモチャがやってくる)・マーリン:イソギンチャクの外に出ると危険だらけ
・インクレディブル:バディ・パイン(熱狂的ファンの少年)の登場
3.「大切なもの」を失う。
・ウッディ:アンディのお気に入りの座をバズ・ライトイヤーに奪われる・マーリン:ニモ(子供)をダイバーにさらわれる
・インクレディブル:社会的に糾弾され、ヒーローの地位を奪われる
4. 主人公に「屈辱」を与え、世界は不公平だと感じさせる出来事を起こす。
・ウッディ:みんなの前で空を飛ぶバズ。旧式のウッディは恥をかく・マーリン:(そもそも自然界は不公平な場所だから、屈辱は不要)
・インクレディブル:人助けしたのに犯罪者呼ばわりされ、地味な職業に追いやられる
5. 主人公を「岐路」に立たせ、2幕へ進む。
屈辱を受けた主人公はa) 健全な道
b) 分別のない、無責任な選択
のどちらかを選択しなければいけないが、a) を選んだらそこで物語は終わってしまうので、必然的にb) を選んで代償を支払う羽目になる。
・ウッディ:a) 引退する b) バズを殺して、ふたたびアンディのお気に入りに復帰する
→代償:バズを連れ帰るまで家に戻れなくなる
・マーリン:a) 子供を信じてまっとうに育てる b) 過保護に育てる
→代償:子供がダイバーに連れ去られる
・インクレディブル:a) 一般市民として平凡に生きる b) 妻にウソをついてヒーロー活動を続ける
→代償:組織に目をつけられ、大きな事件に巻き込まれる
(この5. が、俗にいうところの「プロットポイント」となる)
この脚本講座はここで終わり。第2幕以降については「主人公は、失った大切なものを取り戻す旅をして、最後にそれを取り戻すと弱点も克服している」とだけ説明されている。
もちろんこの講座はあらゆる作劇の中の一部について説明したに過ぎないが、一般的な作劇法(神話・民話や「アーサー王物語」などの名作物語をユング的に分析しました、みたいなもの)に比べると実に簡潔でわかりやすい。自社の作品を例に説明するあたりもピクサーらしい。この調子で第2幕以降の説明も映像化したらけっこう売れるのではないだろうか。
脚本を書く予定がない人も、この脚本講座をふまえて娯楽映画・ドラマを見てみると面白いかもしれない。私は「あー、この主人公って“大切なもの”も“弱点”もあいまいだな」と、今クールの某テレビドラマを見て思った(1話だけ見てやめました)。
追記:この脚本講座が収録されているのは「ブルーレイ+DVDセット」ではなく、以下の「スーパー・セット」です。
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