『ゴッド・オブ・ウォーIII』の結末は“神話の力学”そのものだった

SCEPS3■2010年3月25日発売■アクション■5,980円(税込)■★★★★★
ギリシャ神話の世界を舞台にした、人気アクションゲームのシリーズ第3作。軍神クレイトスを操り、行く手をさえぎる裏切り者の神々を討伐する。ハードウェアがPS3となり、グラフィックなどの要素が格段にレベルアップした。シリーズを通して描かれてきた、クレイトスの神々への復讐が本作で完結する。


大好きな『ゴッド・オブ・ウォー』もついに3作目を迎えた。早々に入手し、早々にクリアした。本当に面白かった。史上最高のゲームの一つと言っても過言ではないってぐらいの、何もかもが破格のものすごいゲームだった。
今回のテーマは何と言っても「復讐の終わり」である。主人公のクレイトスは本作の冒頭でいきなり「私の復讐が終わる」とつぶやくし、サントラCDの最後の曲のタイトルも「End of Vengeance」だ。
以下、若干ネタバレになりそうなのでご注意ください。



妻子を失い神に裏切られたクレイトスの復讐は3作目にして確かに達成されたが、クレイトスは相応の報いを受けた。あの終わり方は確かにちょっと後味悪い感じがするが、私はあれ以外の締め方はありえなかったんじゃないかと思う。

クリエイティヴ脚本術―神話学・心理学的アプローチによる物語創作のメソッド

クリエイティヴ脚本術―神話学・心理学的アプローチによる物語創作のメソッド

「クリエイティブ脚本術」という本がある。これは、キャンベルの神話学をベースにしつつ、とんでもない数の名作映画を分析して、名作に共通した神話的構造を発見してまとめたという面白い本だ。この本の“旅のパッセージ”の図(P.115)を引用する(矢印は私が書き足しました)。

いわゆる普通の映画は、この図の一番下(地獄)から始まって、右半分を上昇して頂点(楽園)を目指すパターンが多い。主人公がたまたまその道に足を踏み入れ、通過儀礼を経て戦いに勝利し、何か(名誉、異性、富……)を手に入れる、みたいなパターンだ。「ロッキー」から「スウィングガールズ」まで、この構成で作られた面白い映画は実にたくさんある。「ハリウッド映画の脚本には方程式がある」みたいな話が出たら、たいていはこのパターンを指している。
しかし、『ゴッド・オブ・ウォー』がたどるパターンは真逆だ。図の左半分、楽園から地獄へ真っ逆さまである。英雄クレイトスは神のパワーと引き換えにアンチヒーローとなり、神の策にはまって妻子を殺してしまう。鬼神と化したクレイトスは手当り次第に神々を抹殺していく。クレイトスは毎回いつも黄泉の国に落っこちるが、これは明らかにアンチヒーローとしての下降そのものだ。
アンチヒーローが復讐を遂げる時に何が起きるか、それは図を見れば明らかである。神々を殺し続けたクレイトスの旅路の果てに待っているのは「死」あるのみであった。それが神話の力学というものかもしれない。ギリシャ神話をモチーフにした『ゴッド・オブ・ウォー』は神話の力学に抗えるはずもなかった、ということか。業から解放されたクレイトスがその後どうなったのかはわからないが、三部作の完結編としてこれ以上に見事な“引き際”はない。下手な続編とか外伝とか、ほんとやめて。お願い。

私はマンガやゲームの登場人物にはあんまり感情移入できない性分だが、この『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズは別だった。今回は1〜3作目が全部入ってる『ゴッド・オブ・ウォー トリロジー』を買ったので、久々にクレイトスの復讐と転落の人生を1作目からさかのぼってみたいと思う。
ほんとPS3買ってよかった。サンタモニカスタジオさん、面白いゲームをありがとうございました。